
ヨモ大陸物語:彷徨の末に
(アウフヘーベン号 詩篇:電脳惑星の三面鏡と「意伝子」)
(新しき個よ 選択するのだ)
それは声でなく 脳へと直接語りかける
(独個か 繋がる個か 個の統合か)
繰り返される詰問の旋律に パルタは覚醒する
アウフヘーベン号の船窓から
差し込む未知の光
声の主を探す視線の先
脳へ情報が流れ込む
「貴方にはすでに体はないのですね」
「電脳化した存在群 非物質の群れなのですね」
彼らの太陽が高熱化し
彼らの惑星もまた灼熱と化す
科学力で凌いでも 訪れた回避不能の限界
彼らは地下へと生活圏を求め
深く深く沈み それでも限界を迎え
ついに肉体を脱ぎ捨てた
電脳の世界へと 個の複写が始まる
惑星維持の活動は 機械の腕と脚に委ねて
当初は家族を 国家を 仮想の中に残しながら
果てなきバーチャルな生活を開始する
幾重にも重なった限界の果て意識は分かたれた
純然たる個として沈思黙考するもの
集団を保ちつつ 個の連携を模索するもの
個を廃し大いなる統合へと向かうもの
純然たる個は静寂に沈み 連携の個は饒舌を尽くし
統合へ向かうものは激論を交わす
三分割された電脳空間 漂う無数の意識
「私に語りかけるのは 個の繋がり(連携)なのですね」
「沈思黙考の末に繋がりとなり 繋がりから個に戻る者」
「けれど統合からは もはや個には戻れない」
統合の奥にパルタは見る あの【PARTA】の気配を
最後の一細胞まで喰らい尽くす超絶な蟲毒(こどく)の衆愚
(新しき個よ 選択するのだ)
(太陽の超高熱周期が巡って来る前に)
迫る詰問に 幼き旅人は静かに答える
「私には まだ体があります」
(肉体は奪わない むしろ改善しよう)
(旅する新しき個を 我らは求めているだけだ)
(個を写し取る代償に 新しい個の旅を手助けする)
「なぜ選択肢は 個別の三通りなのですか?」
「私は第四の選択をします。三位一体です」
「私の個を三つに写し 独個・繋がり・統合 全てに配置してください」
(それで どうなる?)
「どうなるかは不明です ただ多様性の根本を残したいのです」
「それは貴方方の遺伝子ならぬ 意伝子(いでんし)となりましょう」
(多様性か 逆の意味で【PARTA】の弱点だな)
かつて七福神は最期に ハニカム波動で指示した
地球の地下深く 細胞とナノマシーンの塊へ
「環境が落ち着いたら 人類を再生せよ」と
(月のナノマシーンは どうしたのだ?)
「アウフヘーベン号を構成したもの以外は……」
(問題は隠蔽の超天才 コクトーだな)
「恐らく 幾重ものデルポリで 全てを遮断した」
(月の地中奥深く 常温冷凍で存えているコクトー)
(彼はデルタ波動しか使えず ナノマシーンにも期限はある)
(新しき個よ 否 すでに三者として配置された個々よ)
(三面鏡として 自身を映し続けるがいい)
(旅立つ個よ あの小さき物は この塊だ)
(個の繋がりより 十二名の同行者を遣わそう)
「このヒューマノイドの方々ですね」
(帰路には 本来の二月二十九日がそうでない長い時間がかかる)
(その間 汝を冷凍保存し 彼らが交代で保全する)
「彼らを 何とお呼びすればいいですか?」
(PORTA:再生および時空記録守護運用体)
「惑星外にも 新しき個を訪ねるのですね」
アウフヘーベン号は
再び 宇宙の深淵へと漕ぎ出す
十二の守護者と三つの「意伝子」を刻んで
数万年の流離の果てヨモの地に芽吹く記憶のために,,,

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